冒頭からお詫びがある。
本記事はイラストから描き始め、テキストを後にしている。
で、テキストを書き始めてから、今回のエピソードが1970年代の出来事であることに気づいた。
もう後戻りはできない。
ということで、タイトルに偽りありで大変申し訳ないが、わたしの70年代の話も聞いてもらえると嬉しい。
時は1979年である。
万年筆が新入学の贈り物だった時代が間違いなくあった。
すでに世間的には実用から離れていた筆記具ではあったが、1980年代までは「万年筆を送られることが大人への第一歩」だったのだ。
小学生が中学生に。
あるいは、中学生が高校生に。
そういう節目に、親から、あるいは親戚縁者から、贈り物として万年筆が届く。
誰しも、ファースト万年筆に触れる機会があった。
十代の間に手元にあった万年筆は、みな頂き物である。自分で買ったものはない。
その中で、本当のファースト万年筆が何だったかを考えてみると、時期的にどうもこれがわたしのファースト万年筆のようなのだ。
学研の「ミーとケイのサイン万年筆」である。
ピンク・レディーというアイドルユニットの名を聞いたことがあると思う。
2018年の現在においても、レジェンド級のアイドルユニットとしてテレビに登場することがある、女性二人組のことである。
デビューは1976年。そこからの2年間、日本で最もレコードを売る歌手として不動の地位を築き上げる。日本中の男子が熱狂した、と言っても過言ではない。わたしも小学生ながら同じ静岡県出身ということもあり、彼女たちを応援していた。
1979年3月にはわたしも小学校を卒業し、中学校に上がる。世間的には中学生になると「学習雑誌」というものを年間契約して、授業の他に自宅学習の助けとする風潮があった。
わたしは小学校で、学研の学習雑誌『○年の科学』を毎月購入していた。その流れもあり、学研の中学生向け学習雑誌を年間購読することになった。
学研の中一向け雑誌は『中学一年コース』。年間購読すると万年筆がついてくることは、『6年の科学』に挟まっていた年間購読のチラシに書かれていた。
この万年筆に、ピンク・レディーのサインが入っていたのだ。
わたしは年間購読の景品である万年筆を受け取り、パッケージを開いてさっそく使用説明書を読んだ。
万年筆は初めてである。
なので、説明書を頼りに見よう見まねでスペアインクを差し込み、ペン先にインクが到達するのを待つ。
なかなか出てこないので、新聞紙を床に敷いてその上で振ってみたりした。
しばらくするとインクが滲み出てきたので、さっそくノートに書いてみる。
といっても、字ではない。書くのは、絵だ。
わたしは当時、万年筆を「漫画を書くペンの代用品」にしようと思っていたのだ。
当時はシャープペンシルで綴じノートに漫画を書いていた。まだシャープペンシルで下書きし、ペン入れをして下書きを消す、などという高度な作業は思いもつかない時期である。
なので、万年筆もペン入れ用ではなく、あくまで「漫画家の雰囲気を味わうため」下書きなしで絵を描くのに使用していた。
白ペンでありながら、ミーとケイのサイン万年筆は実になめらかに紙上を滑っていく。藁半紙やチラシの裏は苦戦したが、コクヨのノートなど、上質な紙を使った際にはたいへん気持ちがいい。
わりとすぐにインクがなくなったので、母親にねだってスペアインクを買ってもらった記憶がある。そしてそれが他社のもので、入れられずに悩んだことも憶えている。
その頃は、メーカーによってスペアインクの形が違うなどと言う知識は、家族揃って持ち合わせてはいなかったのだ。
1979年4月、わたしは中学校に進学した。
その頃から、ピンク・レディーの快進撃は迷走を始める。
出すレコード総てがオリコン1位だった時代は去り、その人気は急激に下降していく。
1980年、ピンク・レディーは解散を発表した。
すでにわたしはミーとケイのサイン万年筆を使ってはいない。
わたしの最初の万年筆ブームは、ピンク・レディーとともにやってきて、彼女たちとともに去って行ったのだ。
消せない筆記具である万年筆は、失敗が許されない。
スペアインクはシャープ芯に較べ減りが早く、お金がかかりすぎる。
しばらく使わないと乾いてしまい、使い勝手が悪くなる。
だんだんと使用頻度が落ちていき、そして気づけば手元から消えてしまっていた。
わたしの手元に常用の筆記具として万年筆が戻ってくるのは、それから約10年後──わたしが社会人になってからだ。
奇しくも、その時手にしたのは、パイロットのショートサイズ万年筆・エリートだった。
ミーとケイのサイン万年筆とほぼ同型のそれは、たいへん丈夫でたいへん書き心地も良く、今でもたまにインクを通して使うことがある。
そしてそのボディを観るたび、金ピカに輝く万年筆を思い出すのだ。
心の中のファースト万年筆は、今でも心の中で輝き続けている。それはきっと、永遠の輝きなのだ。
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さて。
なぜたこぶろぐに『ブンボーグ・メモリーズ』が掲載されているのでしょうか。
そう。
実は連載は先月で終了していたのです。
『ブンボーグ・メモリーズ』を開始する前から、決めていたことがありました。
ネタの第一回は、わたしの中の文房具好きが一気に開花したきっかけとなったチームデミで。
そして、最終回は、それと対をなす存在であるファクトリーで。
そう決めて、ネタを操ってきました。
そして今回のこの「ミーとケイのサイン万年筆」を書き上げたところで、急にやってきた最終回のお知らせ。
そう、わたしはこの記事をお蔵入りにして、ファクトリーの記事を改めて書いたのです。
毎月第三金曜日は『ブンボーグ・メモリーズ』の更新日。
お蔵入りとなった原稿は、こうして日の目を見ることができた、というわけです。
今後も(毎月更新できるか保証の限りではありませんが)、『ブンボーグ・メモリーズ』はここで続けていきたいと思っています。
連載では1980年代という縛りがありましたが、このブログ掲載版ではもう少しそこらへんを緩めて、幅広く文房具をイラストで、そして文章で紹介していきたいと思います。
今後ともご贔屓に!
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