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WEZZYから正式に「既にもらっている原稿の掲載ができなくなりました」と連絡があったので、手持ちの未発表記事をここに掲載しようプロジェクトも佳境に入ってまいりました。
今回は変形大好き人間にはたまらない、これです。
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会社で発生する様々な書類、A4のプリントアウト、学校からの配布物、とっておきたいチラシ……職場でも、ご家庭でも、まだまだこういった用紙をファイリングすることがあると思います。ペーパーレスという言葉とは裏腹に、紙はなかなかなくなりません。
数が多かったり、のちに閲覧が必要だったりした場合、紛失が怖ければバインダーに綴じるのが一般的ではないでしょうか。いちばん手軽なのは2穴パンチで穴を開け、紙製の安価なフラットファイルに綴じて整理することでしょう。
そういえば、2穴パンチってお持ちですか。もし持っていたとしても、壊れるものではないのでかなり古くなっていたりしませんか。
2穴パンチはその使用頻度に対して収納が比較的困難な文房具だ、とわたしは思っています。押すためのハンドルがあるので高さもそこそこありますし、金属製のベース部分がけっこうかさばって、机の薄い抽斗部分には入りません。机上に置いておくと埃が溜まって、露出しているバネ部分などがかなりみすぼらしくなります。
今回ご紹介するミドリのXSコンパクトパンチは、そんな貴方にお勧めしたい最新のスタイリッシュ2穴パンチです。
ミドリは株式会社デザインフィルの文房具ブランドの名称ですが、そのカバーする内容は多岐にわたります。ビジネス、女性、家庭と児童など、さまざまなジャンルの製品を持つミドリですが、そのラインアップの中に「極小文房具」だけを揃えるXSシリーズというカテゴリがあります。
XSとはエクストラ・スモールの意味です。極小の文房具ですが、機能を削ぐことなくコンパクトにまとめたハサミ、ホッチキス、修正テープ、テープのり、カッター、メジャー、テープカッターがラインナップされており、そのうちテープカッターを除く6種類はXSステーショナリーキットとしてケースにまとめて販売もされています。
持ち運びに優れ、それでいて必要充分な機能を持つXSシリーズはどこでも使えて便利なのですが、今回のXSコンパクトパンチはその中でも異彩を放つギミックを装備しています。
折りたたまれた状態では、プラスチックの直方体です。長さ67mm、幅28mm、厚さ17.5mm。重量は66gです。持った感じ、見た目よりずっしりしていて、内部に金属製のパーツがふんだんに埋め込まれていることを感じ取れます。
この四角くて重たい感じは、金属製ライターに似ています。古い話で恐縮ですが、わたしがこどもの頃に放映していたテレビアニメ『黄金戦士ゴールドライタン』(1981年3月1日〜1982年2月18日、東京12チャンネルからテレビ東京系放送)に登場する、金属製ライターに擬態した変形ロボ「ライタン軍団」を彷彿させるところがあります。持っているだけで何となく嬉しくなってしまう形状と重量感です。
変形方法は至って簡単です。本体は可動部分である腕部と、ヒンジが隠されている胴体部分に分かれていますが、この胴体部分を上に向け、腕部を摘まみ左右に開くだけ。
カチッという音がして本体が完全に起き上がれば、変形完了です。
変形によって露出した金属部分がむやみやたらにかっこいいです。
使い方も簡単です。開いた腕部の中央に、平たい樹脂板が露出します。中央に矢印があるのが判るでしょうか。ここが用紙の中央です。かるく紙を折って用紙の中央を出し、この矢印に合わせるようにセットします。
そして上部に跳ね上げられた胴体の四角いパーツをぐっと押し下げます。押し下げる際、両方の腕部に均等に力が入るようまっすぐ押すのがコツです。
穿孔力はコピー用紙で5枚です。実際にはコピー用紙にも様々な厚さがあるので、この世の総てのコピー用紙が5枚穿孔できるとは限らないのですが、少なくともわたしが愛用しているコクヨのKB用紙(64g/m2、厚さ約0.09mm)は難なく5枚穿孔できました。
収納変形もまた簡単です。先ほど押して穿孔した四角い胴体パーツをぐっと押し下げ、下パーツと隙間なく当たったら両腕を中央に戻してください。これもカチッという音がするので、それで変形が完了したことが判ります。
穿孔した際に出る丸い抜き紙は、腕の下部にストックされています。この部分をダストトレーと言うのですが、このトレーには指先を引っ掛けられる溝がありますので、これを軽く引くと下方にガバッと開く構造になっています。ゴミ箱の上などで行うと、周囲に抜き紙が散らばらなくていいですね。腕は2本あるので、ダストトレーの清掃も2回行う必要があります。
このダストトレーはとても狭いので、抜き紙をたくさん溜めておくことができません。できれば使用後、速やかに処理した方がいいでしょう。あまり抜き紙が溜まってしまうと、不意にダストトレーが開いてしまい、周囲にゴミをばらまく結果になります。
本体色は黒、白、青、ピンク。XSシリーズの青はシアンに、ピンクはマゼンタに近く、かなりはっとする明るいカラーリングでわたしは大好きです。本体価格は1,056円(税込)です。
本製品はコンパクトで持ち運びにも優れ、また薄い抽斗などにも常備できる画期的な2穴パンチです。その操作性、スタイリッシュなデザイン、心地よい重量感、そして何より変形するとかっこいい。使用頻度は低いけどパンチを常備しておきたい貴方に、ぜひお使いいただきたい逸品です。 -
今回は「気楽っていいですよね」というお話。
主役はミニスケッチブックです。
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2021年、ISOT(国際文具・紙製品展)に、特別なブースが出展されました。
その名も、「文具王's セレクション」。
文具王こと高畑正幸が、ISOTに出ていない(出ているものもありましたが)文房具を自らセレクトして紹介する、ある意味最も特濃なコーナーです。
ここにはわたしも知らない文房具がたくさん並んでおり、実際に手に取ってじっくり見ることができるというたいへん贅沢なコーナーだったのですが、ここで目を引いたのがが今回の主役。
アピオのミニスケッチブックと、そのテンプレートです。
テンプレートつきのものは表紙カラーがグレー1色のみ。550円(税込)。
ついていないものはブルー、ブラック、ライトブルー、ピンクの4色展開。こちらは297円(税込)です。
なので、最初はテンプレートつきを買って、気に入ったらテンプレートなしのミニスケッチブックを買い足していくのがいいかな、と思っています。
この展示の時は「ほほう、かわいらしいスケッチブックがこの世にはあるものよのう」程度の感想だったのですが、その認識が変わったのが9月27日にリモートで行われた鼎談でした。
【連載】月刊ブング・ジャム Vol.55 芸術の秋に使いたいおすすめアイテム(その3)
この鼎談は毎月行われているのですが、2ヶ月ごとにやり口が異なります。
奇数月公開記事は、文具のとびら編集部が用意したネタ(たいてい新製品)に対し3名が語るやり方。
偶数月公開記事は、編集部よりお題が出て(今回は「芸術の秋に使いたいお薦め文房具)」)を各個人で持ち寄ってプレゼンするやり方。この場合、3名が何を持ち寄ったのかは、リモート会議が始まるまで判りません。
これ、被る可能性があるのですが、永年やってる我々はだいたいにおいて回避、あるいは「あいつがこれをやってきそうだから、ダブったらプランB」というやり方で凌いでおります。
また、基本的に「聴いてるふたりにあっと言わせる」ことを念頭に置いたガチプレゼンなので(ウケないと凹む)、けっこう精神を削がれる鼎談だったりもします。
ここで文具王がアピオのミニスケッチブックを紹介したわけですが、Zoomで彼のプレゼンを見ながら「なるほど、やはり使ってみないとわからないし、使った者だけが語ることのできる語り口だ」と改めて感心したんですね。
で。
わたしも、遅れ馳せながら購入いたしました。
アピオさんは、スズキのオフロード四輪駆動軽自動車「ジムニー」のカスタムパーツを専門とするプロショップです。
ここのショップの「パーツ→アピオ&ジムニーグッズ」に、本製品は掲載されています。
ここからは、テンプレートつきの製品について語らせてください。
テンプレートは樹脂製で、4つある金属リングに引っ掛けてあるだけなので、簡単に取り外しできて好きなページの前に置くことができます。
紙面はリング穴から換算して、縦43×横38mm。分厚くて本格的なスケッチブック用紙です。かなりコンパクトでちいさな用紙ですが、それでも「紙いっぱいに描くのはどうも」と躊躇される方もいらっしゃるかも。
そもそも「絵を描く」というのは、息をするように描く方と「憧れてるんだけど手が動かないんだよね」という方では、意識がまるっきり異なりますよね。
この小さな用紙に、さらに31×33mmの枠を書いて、描く面積を減らしてしまおう──というのが、このテンプレートの存在価値なのです。
そして何がいいかというと、これだけで絵画っぽいというか、昔風に言うとポラロイド、今風に言うとチェキっぽい「白い枠」ができてレイアウトが決まるんですね。
絵の配置を気にしなくていい、とりあえずちいさな四角の中をそれっぽく埋めてしまえば絵画風になるという大発明です。
絵はこのままスケッチブック本体につけたままでもよし、切り取って別の旅ノートや手帳に貼ってもよし。
とにかく気楽に描くためのハードルが下がる、水彩で塗っても問題ない、持ち運びが楽でペンケースにも放り込んでおけると、三拍子揃ったユニークな存在です。
気楽にお絵かき、してみませんか?
心も身体も落ち着きますよ。 -
WEZZYに送ったけど載らなかった原稿シリーズ、まだあるんですよ。
新作と交互に出せたらいいのですが、新作を書く余裕がない場合は蔵出しが続きます。
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筆記具の中でも、筆ペンというものはかなり特殊なポジションだと感じます。
使うシーンは限定されていますよね。本当にお好きで、なんでも筆ペンだ! という方もいらっしゃるかもしれませんが、実際のところ
1)慶弔の際、祝儀袋や不祝儀袋に名前を書く
2)葉書の宛名を書く
3)葉書や便箋の本文を書く
4)熨斗紙に用途と氏名を書く
といった用途が大半ではないでしょうか。
とくにご家庭では、ご結婚はともかく急に決まった告別式やお葬式のために、ストックしていない不祝儀袋と筆ペンを買いに走る、なんて経験がある方も多いのではないでしょうか。
普段から筆ペンに慣れていない方は、ここで柔らかい穂先とたっぷり出るインキに戸惑われることでしょう。穂先の柔らかさは製品によって選択できますが、たいていの筆ペンはインキがたっぷり出ます。そして、これがまた乾かないんですよね。慌てて書いているから、つい手でこすってしまって、また袋を買いに走る……。
2019年、パイロットコーポレーションは画期的な筆ペンを発売しました。その名も「瞬筆」。書いてわずか1秒でインキが乾くという、驚異の速乾性能を持った筆ペンでした。
ところが、残念なことに瞬筆は染料系のインキで、耐水性がありませんでした。なので、祝儀袋や熨斗紙などには重宝したのですが、雨に晒される可能性のある葉書には使用できませんでした。
残念だざんねんだとずーっと思っていたのですが、ここで2021年に新製品が登場しました。今回の瞬筆は「瞬筆 顔料インキ」──そう、ついに1秒速乾の瞬筆に耐水性のあるタイプが登場したのです。
顔料インキの瞬筆は3種類。
・本格毛筆の中字(定価880円)
・本格毛筆の細字(定価880円)
・中字と細字の二役(定価385円)
3種類とも、インキ色は黒のみです。
本格毛筆は穂先が筆を模した樹脂繊維の束で、イタチ毛や馬毛といった天然のものに較べ約3倍の耐久性があります。
使用前に首透明軸と本体をネジで外し、中間に挟まっているリングを除いてつけ直します。そして本体を潰すようにつまんでインキを穂先に持って行く作業を行います。
以降、インキが薄いなと思われた際には、この「つまんで出す」ポンピング作業を行いつつ書いていくことになります。インキがなくなったら、この本体部分をまるまるカートリッジとして交換可能です。カートリッジは定価330円です。
瞬筆顔料インキの二役は、中字側がやわらかいフェルトの弾丸型チップ、細字側が硬い樹脂のペンチップになっています。筆の柔らかさに慣れていない方は、この細字側を通常のペンのようにお使いになり、必要があった際に中字側で太めの文字を書かれるといいでしょう。
二役はインキが液体の状態で本体に格納されていますが、本格毛筆のように軸をつまんでインキを押し出す必要はありません。インキは万年筆と同様に書いた分が空気交換と共にペン芯を伝ってペン先に供給され、内圧が上がった分は櫛溝が受け止めますのでインキの噴き出しもありません。こちらはインキの交換補充はできません。
とにかく瞬筆顔料インキの最大の売りは「速乾」「耐水」これに尽きます。書いてから、故意に手で擦ってみても、まったくインキが手に着くことがありません。一秒速乾は伊達ではありません。
色目を見ても、過去の筆ペンと何ら遜色がありません。これだけ黒々と出ていて耐水性があって速乾なのですから、今後の筆ペンはすべてこれでもいいのではないかと思うくらいです。
筆ペンの最大の需要期は年末、減ったとはいえ年賀状に使用する量がもっとも多いのも事実です。この冬は久しぶりに筆ペンで年賀状を書いてみませんか。宛名だけでもいいので、ゆっくりと一枚一枚手書きをすることで、忘れていた何かを取り戻ことができるかもしれません。
もちろん、残暑見舞いやその他のカードなど、耐水性のある瞬筆顔料インキなら、どこにでも活躍の場があります。
2019年に発売された染料インキの瞬筆には、うす墨があります。うす墨は不祝儀袋に記入する際に使用する色ですから、耐水性は不要ということで今回の瞬筆顔料インキのラインナップには含まれなかったものと思われます。
宛名は瞬筆顔料インキ、不祝儀用には瞬筆のうす墨。ぜひ一度、お手にとってその速乾性能をご堪能下さい。 -
FMOZE 「他故となおみのブンボーグ大作戦!」放送1周年記念トークライブ 〜 ご当地インクでSHOW!〜」、昨日ぶじに終わりました。いやあ楽しかった!
ツイキャスでは10月30日まで見逃し配信で視聴が可能ですので、皆さまぜひ1,500 円払ってご覧下さい。それ以上の価値がありますよこれは。
https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/95593
さて、通常のたこぶろぐもお楽しみ下さい。
東京都で、四度目の緊急事態宣言が解除されたのが2021年9月30日。最初の宣言が2020年4月7日から5月25日、二度目が2021年1月7日から3月21日、三度目が同年4月23日から6月20日。そして四度目が7月12日から……この1年半で生活は否応なしに変化を遂げてきていますよね。
特に新型コロナウイルスの蔓延による緊急事態宣言が出され、感染者数や患者となられた方の重傷者数などが注視されていた地域では、その蔓延の有無に関わらず会社における働き方が見直され、解除後も在宅勤務をされている方も多いのではないでしょうか。
巷で喧伝されるほど、会社は在宅についてこれといった支給はしてくれないもの。わたしもノートパソコンとマウスは支給されましたが、仕事に必須な文房具やテンキー、あるいは椅子に着けるクッションなどはすべて自腹でした。
で、どうせ自腹なら、実用性が高くて見た目もいい、お気に入りの仕事道具で自宅のテンションを上げていきたいですよね。
会社との通信ツールを特に支給されなかったわたしは、連絡方法はもっぱら自分のiPhoneでした。電話代は0035で会社持ちなのですが、ノートパソコンはあるのに通信ツールは皆無。とにかくiPhoneをすぐ取れる位置に常に置くことが重要でした。
べつに専用のスタンドだっていいのです。でも、自宅の机上は狭く、できればモノは洗練し減らしたい──そんなとき、筆箱とスマホスタンドがいっしょになっていれば便利ですよね。
今回ご紹介するパイロットの「オトバコ」は、そんな便利筆箱のひとつです。
特徴があるとすれば、硬い樹脂材料で構成された「箱」だ、ということ。
大人が持つ、あえての「箱形筆箱」スタイルとでも申しましょうか。ポップ過ぎず、学生寄りでもなく、がっちりしていて安心感がある。そして最新の文房具でありながら、レトロ感覚も持ち合わせている。そんなスタイルだと思います。
かなり分厚い印象があります。横185mm、縦53mm、そして厚さが48mm。分厚いのですが、ペンとしては5本が収納限界です。
なぜかと言えば、本製品は変形して展開する機構を有しているからです。
蓋を開くと、2室あることに気づかれるでしょう。奥側は箱状に仕切られて、箱の中にさらに短い箱があります。手前側は壁があり、その内側にトレイ上の置き場が見えます。
この手前の壁をさらに開いて下に降ろします。
そして箱の中にあった短い箱を回転させ立てることによって、オトバコは変形を完了します。
立てた箱には、最も良く使う筆記具を2本。
展開したトレイには、その他のペンを3本。わたしの例のように四角い消しゴムを入れると、一般的な長さの筆記具はトレイに1本しか載せることができません。たまたま短軸であるマルライナーがあったので助かりましたが、この例を見てもお判りの通り、本製品は消しゴムの携行を重視していません。簡単に言えば、学生の使用を意図していないのです。
さらに拡がった下部トレイは自由スペースです。トレイの中の1本を転がしておいてもいいですし、付箋を貼ってみたり、15センチ定規ならここに入れておくことも可能です。
トレイと箱の間には滑り止めの黒いゴムが敷いてあり、ここにスマホを立てることができます。写真では横置きしていますが、縦でもまったく問題ありません。
動画を見たいときは横置きで、電話を受け取ったりカメラを上部にしたビデオ通話などの場合は縦置きで使うのがいいでしょう。
オトバコは「大人の筆箱」だとさきほど申しました。学生がペン5本で満足できるはずもなく(しかも四角い消しゴムを入れたらさらにペンは減ってしまう)、逆に大人ならお気に入りのペンは厳選すればここに納まるでしょう。
箱形に戻すと本体を縦置きにして収納することもできますので、使用後の収納スペースは横型より邪魔になりません。
ひとつ使用上の注意点があるとすれば、トレイパーツは固定されていないので、箱形に戻さずそのまま持ち上げるとトレイの内容物がざらざらと落ちてしまうことでしょうか。慣れるまで、わたしもよく机にペンや消しゴムをぶちまけていました。
本体カラーは6種類。写真のアクアの他にコーラル、ラベンダー、ナイト、オリーブ、モカがあります。定価は2,200円(税込)です。
さりげないスタイリッシュさ、箱形であることの安心感、そして実用性の高いスマホスタンド機能。大人のあなたにお薦めする機能筆箱です。 -
というわけで、WEZZYに送っておきながら掲載されなかった原稿供養第三弾。
これまた発売からけっこう経ってしまいましたね。
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日々、万年筆用のインクが新しく発売されています。魅力的な色、変わった瓶の形、香り、輝き、紙に載ったときの色変わり。でも欲しいと思ったものを片っ端から買っているうちに、自宅が瓶だらけに……そんな方、いらっしゃいませんか。
万年筆だとコンバータを使用してインクを内部に入れてしまうので、違う色に入れ替えるたびに洗浄しなければなりません。これは万年筆を常用するひとでも手間のかかる作業ですし、ライトなユーザには億劫ですよね。
そこで現在では、ペン先をインク瓶につけて書ける手軽さから、ガラスペンが流行しています。
ガラスペンは装飾性が高く見た目も美しいのですが、「書いた線」の話になると個体差が大きく、バリバリと筆記に使いたい方はその「巡り会い」に賭けるしかないのが現状でした。
では、調整が困難で品質を一定にできないガラスとは異なり、品質管理され一定の書き心地が保証される金属で作成されたつけペンはないのでしょうか。もちろんGペンやかぶらペンといった従来からあるつけペンは現在でも健在ですが、そうではない「21世紀の筆記具」としての金属つけペンがあれば、インクによる筆記ももっと楽しく行うことができるのではないでしょうか。
今回ご紹介する有限会社シオンの「ドリログ」は、そんな21世紀の新しい筆記具を目指した野心的な製品です。
ドリログという名は、切削道具である「ドリル」と対話を意味する「ダイアログ」からなる造語で、確かにそのペン先はドリルを彷彿させる尖りを見せています。
シオンの職人がデザインしたそのペン先は、シオンの本業でもある航空産業における切削パーツ作成技術がふんだんに活かされています。
ペン先はステンレス製で、0.5mmと0.8mmの二種類。価格はともに16,280円(税込)で、本製品はペン先だけの販売となっています。ペン先をつけるための専用ペン軸は別売りで、種類がいくつかあります。わたしは今回、ツインズ・スパイラルAと呼ばれる両頭軸を購入しました。こちらは15,180円(税込)でした。
数値コントロールによる精密切削で作成されたドリログのペン先には、本製品にしかない特殊な技術が使用されています。
そもそも、ペン先にはインク瓶に浸けた際に供給されるインクが保持されていなければなりません。Gペンなど金属製のつけペンは裏面が反ってへこんでおり、そこにインクを表面張力で溜め込んでいました。ガラスペンでは螺旋上に溝が掘られ、そこにインクが毛細管現象で保持されています。
ドリログの表面にも、ガラスペン同様に溝があります。ところが実験の結果、ステンレスはガラスと違って、溝に液体を保持できないことが判りました。溝にインクが入ってもインクはそこに溜まらず、すべて滑り落ちてしまったのです。
ドリログを作成する際、最も困難だったのがこの「ステンレスの溝にインクを溜めておくための加工」でした。その保持加工方法は社外秘ですが、これによりドリログは「ガラスペンのように簡単に使える」つけペンになりました。
0.5mmの筆線はぐっと細く、体感的にはミリペンの0.1ミリ、万年筆ではEFの線が書けます。ただし用紙を選ぶペン先で、ひっかいてしまったり毛羽だってしまうような紙では本領を発揮できません。可能な限り表面の滑らかな用紙を選ぶと、かりかりとした快適な筆記が楽しめます。
先端研磨の困難さで言えば、0.5mmのほうが0.8mmに較べ書き心地を維持するためにより高度な技術を伴う製品ですので、それに合う用紙でぜひお使いいただきたいですね。
0.8mmの筆線はミリペンでは0.3mm、万年筆ではFからMあたりでしょうか。文字を書く際にも絵を描く際にも実になめらかに、するすると筆が進みます。まるで抵抗がないかのようなするする感が癖になりますね。
紙を選ぶこともないので、万能性を重視するなら0.8mmです。ただインクによって、書かれた文字の太さがかなり変わります。また0.5mmの細い線は0.8mmではぜったいに出ないので、とにかく細くて安定した線を引きたい場合は0.5mmをお薦めします。
耐酸性を持たせたステンレスのペン先は錆にも強く、水による洗浄が容易です。洗浄水をコップに用意してペン先をさっと洗い、かるくぬぐってから次のインクをつけて書くといった作業も簡単です。たいへん丈夫なペン先ですので、書いていて摩耗することもありません。
使えるインクは万年筆用であれば、どんなインクでも問題なく書くことができます。シオンでは試し書きにペリカンのブルーブラックを使用しているそうですが、ペリカンのブルーブラックは古典インクです。化学変化を起こして耐水性を出すタイプのインクでも、ドリログは安心して使用できます。
ラメインクのような流れにくい素材を内包しているインクの場合は、流用が多くなる0.8mmのドリログをお薦めします。0.5mmでは溝が詰まって書けなくなる可能性があるからです。
メンテナンスが楽、筆記線が安定、摩耗やインクによる劣化なしと、三拍子そろった21世紀の新しいつけペン──それがドリログです。かりかりの0.5mmも、するするの0.8mmも、本当に書いていて楽しいです。インクをたくさんお持ちの方、これで消費が捗りますよ!