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いろいろな文房具を使ってきました。
筆記具のように、出番が多くてもローテーションになってしまって一種類を延々と使い続けることができない状況のものもあったり。
ノートのように、次から次へと試してみたいものが出てきて定番として定着しないものもあったり。
かと思うと、ジブン手帳のように、購入後9年間まったく浮気せず一途に使い続けているものもあったり。
まあ要するに様々なのですが、さいきん急激に使用率が上がって、相対的に便利さに対するわたしの理解度が増している文房具があります。
スタンプモイスチャー、切手濡らしです。
いま、FM OZEで『他故となおみのブンボーグ大作戦!』という番組を毎週放送しています。
メールが読まれた方には、ステッカーをお送りしています。
そのステッカーの郵送作業に際し、とても重要な文房具が登場します。
それが今回の主役、株式会社ちろりの「ネームルナ」です。
周囲の白い部分は陶器。
中央の青い部分がセラミックスの「超給水体」です。
陶器内部には水を溜めておけます。
その水を超給水体が吸い上げ、青い部分の表面が湿るのです。
通常「切手濡らし」として販売されている文房具の多くは、給水体がスポンジだったり海綿だったり回転する樹脂構造だったりで、塗れている面が本当にびっしょりなんですよね。スポンジや海綿の場合は柔らかいので、つい押してしまってさらに余計な水分が湧いて出てきたり。
また、使い始めにキャップを外したり、回転させる必要があったりと、ワンタッチで濡らすことができないものも多くて。
要するに、わたしが理想とする「常に湿っているけどびっしょりではなく、蓋とかなくてさっと切手を置くだけで濡らすことができる」切手濡らしはあまり見たことがない、という状況でした。
ネームルナは違います。
超給水体は硬く、常に必要充分な湿り気を持っています。
切手を表面に載せるだけで、適度な湿り気が切手裏面の糊に移ります。
切手の上半分、下半分と、2回に分けて超給水体に乗せるのがミソです。
中の水も一週間ほどなら余裕で保持されます。
本体は陶器なので適度な重さがあり、背も低いのでひっくり返る心配はほぼありません。
これを昨年10月から毎週使うことになって、ようやくその便利さが身に染みて判った気がします。
ちろりさんから新製品サンプルを送っていただいたのが2019年。それから常にわたしの自宅ではスタンバイ状態だったネームルナ。でも、出番はほとんどありませんでした。
わたしには、手紙を出す習慣がなかったのです。
それが一転して、毎週必ず使う相棒に昇格です。
いやホント素晴らしい。
というような話を、『ゲットナビ』2021年4月号の大特集「プロが選んだ殿堂入り100銘柄」で取り扱っていただきました。
自分で使って、良かったと思うことが誰かに伝わる。
それを見て、そういう情報に触れることがなかったひとが運命の出逢いをする。
まあ要するに「壮大なお節介」を、わたしは好んでやっている、ということですね。
メーカーは作る。
販売店は売る。
ユーザーは買って使う。
その三者が文房具を介して、等しく幸せになる。
そんな世界を夢見て、わたしはこれからも「わたしが使ってよかったもの」を伝え続けるつもりです。 -
オイルライターを入手しました。
古いものです。正確な年代は判りませんが、おそらく昭和20年(西暦1945年)か21年(1946年)──終戦後まもなくだと推定されます。
メーカー名は、シグマ工業株式会社。
カバーアームに「SIGMA」の文字が見えますね。
裏面には別の社名の刻印もあります。
判りますかね。下がシグマ工業の社名、そして上には──
パイロット精機株式会社の刻印があります。
パイロット精機は昭和19年(西暦1944年)5月、パイロット万年筆株式会社から分離独立した軍需会社です。
昭和に入り戦時色が濃厚となり、さまざまな資材の統制がかかる中、昭和14年(西暦1939年)に万年筆の「生命」とも呼べる金と、ペンポイントの材料であるイリジウムが使用禁止となります。
パイロットはその時、ステンレスのペン先(パイロットではこれを金ペンに対し「白ペン」と呼称しました)を開発し、イリドスミン(イリジウムの合金)の代替品としてパイロスミンという合金を生み出しペンポイントとして使用しています。
このパイロスミンが羅針盤の軸受けに最適とされ、需要が拡大。国への貢献と縮小しつつあった万年筆の製造販売をカバーするため、パイロットは万年筆の製造工場を縮小すると共に軍需のための工場を拡充。のちに別会社を立て、パイロット精機と名づけたのです。
昭和20年(西暦1945年)4月12日の東京大空襲で、パイロット万年筆の志村工場と大塚工場は全焼しました。
パイロット精機は山梨に逃れていましたが、ここで終戦を迎え米軍に施設を差し押さえられてしまいます。
GHQによる解散指令ののち、パイロット精機はシグマ工業と名を変え、最初にライター製造を行います。ところがこれは資材統制によってすぐ頓挫し、続けて時計製造に路線を変更。こちらはセイコーとの価格競争に負けてしまいます。その後は国産初の油性ボールペン製造を目指して開発を続けましたが、夢破れ昭和24年(西暦1949年)には倒産の憂き目に遭います。
記録を見る限りではほとんど市場に出回らなかったのではないかと思っていたシグマ工業のライターですが、メルカリにひょっこり現れたのは奇跡だったのでしょうか。よもやパイロット精機とのダブルネーム仕様だったとはつゆ知らず。
メルカリの販売者によれば「ちゃんと火がつきますよ」とのことだったのですが、わたしはこれにオイルを入れる気にはなれません。
歴史の生き証人として、大切に保管しておこうと思います。 -
大学2年の段階でメインのシャープペンシルが「グラフ1000フォープロ」だったのは間違いありません。
それは、当時わたしが大学のサークルで書いていた連載小説で判ります。執筆は1987年5月。ヒロインの山崎里美は文房具マニアという設定で、「少女のシャープペンシルはその華奢な指には似合わない、艶消しブラックの製図用シャープであった」という描写が成されています。この「艶消しブラックの製図用シャープ」こそが、わたしが使っていたフォープロのことなのです。
残念ながら、当時のフォープロは手許にありません。度重なる転居の嵐に巻き込まれてしまったのでしょう。壊れた、という記憶はないので、「なくすなよばかやろう」と当時の自分を叱ってやりたい気分です。
小学生の頃からいろいろなシャープ芯を使ってきましたが、フォープロを愛用するようになってから、シャープ芯もぺんてるに統一しました。
メイン芯はハイポリマーフォープロ。ラインナップに200円芯と300円芯があったら、迷わず300円芯を選択する人間でした。
なので、ハイポリマー100が出た時も「ふーん、200円芯か……」みたいな反応だったのだと思います。高級芯のほうがなめからに、折れにくく、よく書けると信じていました。
実際のところ、なぜ価格が異なるのか、どこが高級たる所以なのかは知りようもなかったのですが、『シャープペンシルのあゆみ』(日本シャープペンシル工業会・刊)にあるJIS(日本産業規格/当時は日本工業規格)S6019-1959「シャープペンシル用シン」には「上級品」と「普通級品」のグレードが掲載されています。フォープロ芯がこの「上級品」にあたるのだとすれば、価格が違っていても納得がいきますし、書き心地も違っていると言えますよね。「折れにくさ」と「摩擦係数の低さ」は、シャープペンシルの書き心地に直結します。
でも、この表なんか間違ってませんか。上級品の細芯(この時代なので0.9ミリ)が曲げ強さ3,000で、普通級品が7,000って。数値が高い方がより強いのだと思うんですけど。
余談ではありますが、さいきんこのハイグレードって製品、あまり見ないですよね。新製品では出ていないはず。JIS S6005-2019「シャープペンシル用芯」にはグレードに関する表記がありませんので、1990年代後半あたりのJISで「上級品」と「普通級品」の区分がなくなった(おそらく総ての芯が高級品レベルになって、価格は普通級品と同じにできるようになった)のではないかと想像しています。あるいはJISとISOを合わせる課程で消滅したのかも……途中のJIS S6019やJIS S6005を図書館とかで探して確認すればどのへんで記載が落ちたのか判るとは思うのですが、ちょっとまだそこまでは手を伸ばせていません。
余談が長すぎました。
当時のわたしはフォープロにフォープロ芯を入れて満足していました。
最高の組み合わせだと信じて使っていました。
実際、ハイポリマー100は同じ硬度表示でも気持ち柔らかく、当時はシャープなラインが好きだったので、硬めでしっかりと書けるフォープロ芯を選択したのでしょう。
大学時代、ノートを取るのはもちろん、漫画研究会に所属し漫画を描く際にもフォープロは大活躍しました。漫研で描く漫画は会誌に載せる漫画でしたので、シャープペンシルはあくまで下書き。ですから、筆線は濃くなくても良く、むしろシャープな線を引けて、芯が折れにくく、消しゴムで消しやすいことを重視していました。
ハイポリマー100の後に登場したハイポリマー120も試したのですが、これはめっちゃ硬くて同じ硬度とは思えないくらい薄く感じました。硬度を一段階間違えたかのような色合いで、しかも当時は現在に較べわたしの筆圧も高かったので、書いた線に沿って紙が凹んでしまい、ペン入れの時に具合が良くなかったのです。パッケージの面白さに惹かれて買ってはみたものの、好みに合わずメイン使用には至りませんでした。
いま改めて各製品を入手して書いてみると、フォープロ芯よりハイポリマー100のほうが圧倒的に柔らかくてなめらかに書けますね。なんだこれ。今なら間違いなくハイポリマー100選びますねわたし。もう下書きとかしないし。
フォープロ芯は硬めで「なるほどこれは折れないや」って感じ。今なら、いちだん濃い硬度を選びたくなります。
ハイポリマー120は記憶通り、めっちゃ硬くてめっちゃ薄い。これだけ、筆記音が「かりかり」に近いです。ピーキーな芯だなあ。芯じたいが折れないことに生命を燃やす時代だったんですね。まさか将来、シャープペンシル本体側で折れない機能を搭載できるようになるとは思っていなかったんでしょうね。
フォープロ芯の想い出を語ろうと始めたのに、実はハイポリマー100が超優秀芯だったって話に……頑なにフォープロ芯を使い続けていた若いわたしの立場は……。
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ここからは宣伝です。
わたしの冠番組『他故となおみのブンボーグ大作戦!』が来たる10月4日(日曜日)より始まります。
放送されるFM OZEはコミュニティFMではありますが、インターネットを介して全世界で聴取が可能です。
その11月度放送で、ゲストにぺんてるの田島課長と菊池課長をお迎えし、現在noteで絶賛連載中の「シャープペン研究会」とシャープペンシルまわりの話題をお伺いする予定です。
番組では、ぺんてるのお二方にメッセージを募集しております。シャープペンシルの話題だけでなく、ぺんてるには様々な製品があります。今使っているもののお話、これから欲しい製品のお話、また今回のわたしの記事のような懐かしい想い出の話……何でも結構です。番組ホームページにメッセージフォームがありますので、そちらからご応募をお願い致します。
募集の〆切は、2020年10月10日午前6時までです。募集は終了しました。
奮ってご参加下さいますよう宜しくお願い申し上げます。 -
練馬にある、すてき雑貨店「雑貨屋meme」。
たこぶろぐでは2006年にすでに登場していますね。
ホームページを見ると、「お店も今年で17年目!」と書かれております。
ということは、店主memeちゃんとのつき合いも、少なくとも17年はあるということですね。
その雑貨屋memeが、2020年6月30日をもって閉店することとなりました。
memeが入っている建物が老朽化のため、取り壊しになるのです。
8月には新店舗に移動する予定らしいのですが、この永い間お世話になったこのお店とも、もうすぐお別れです。
このみっしりとした店内に、小学生がぎっしり詰め込まれていた時代が懐かしいです。
現在は店内は9名に限定され、10人目は外で待っていなければならない時代。
新しい店舗でも、そういう人数制限は続くのでしょうね。
閉店セールということで、駄菓子を除き3割引。たっぷり買い込んでしまいました。
しばしのお別れです。
また新しいお店ができたらお邪魔しますね! -
永いこと文房具マニアを名乗ってきましたけど、ひとつだけひっかかることがありました。
テレビ東京『TVチャンピオン』第1回全国文房具通選手権のことです。
第2回(1999年)に高畑正幸が前文具王不在の状態で優勝し、その後第3回、第4回と優勝を重ねたことはつとに有名です。
では、第1回とはどういう大会だったのか? 見た記憶すらないのです。これが。ホントに。
第1回全国文房具通選手権は、1993年(平成5年)9月16日に放映されています。
以降、第1回についての情報は書籍『TVチャンピオンへの道!!』(テレビ東京著/データハウス発行 1997年7月19日刊行)に依ります。
本書で語られている内容を、引用の範囲で以下に記載致します。
第1ラウンド:銀座伊東屋
【出題】各フロアにある文房具について3つのヒントが出され、早い者勝ちでその製品を持ってきた者に1ポイント。だんだん階を上がっていき、最後に得点が多い順に第2ラウンドへ勝ち抜け。
第2ラウンド:日本文具資料館
【出題】出題された文房具を視覚・聴覚・触覚で確かめ、メーカー名と製品名を解答する。
決勝ラウンド:スタジオ
【出題】えのきどいちろうとやくみつるが仕事をしている(という設定)。彼らが机から落とすものをヒントに早押しでメーカーと製品名を答える。
第1ラウンドからしてハードです。旧伊東屋の中を早押ししながら点を稼ぎ、階上に向けて進んでいく──まさに『死亡遊戯』。
ここで何名参加し、何名が第2ラウンドに進んだのかは、本書には記載がありません。
第2ラウンドはさらにハードです。液体のりを当てる問題ではシャーレに液体のり、5種類のボールペンメーカーを当てる問題ではキャップとボール(!)のみ……。
最終ラウンドは、記述で見る限りは3名による決勝戦。
やくみつる氏が落としたものは消しカス、えのきどいちろう氏が落としたものはシャープペンの芯……。
決勝ラウンドに進出した方の名前は明記されています。
富山邦生。
松本巌。
古澤あい子。
そしてこの中で、決勝ラウンドを制した初代文具王は──古澤氏でした。
文房具イラストの第一人者であり、文具王のイラストに多大なる影響を与えた富山邦夫=富山邦生=富山祥瑞氏がここに参加していたこと自体、初耳でした。
松本巌氏に関しては、ググって出てくるのが出場したご本人かどうかの確証は得られませんでした。
古澤あい子氏はいまググると、ぺんてるのコーポレートレポート2009が出てきます。『TVチャンピオンへの道!!』記事内では「オフィスのファイリングシステムを企画提案するコンサルタント会社に勤務」とありますので、恐らく収録時はコンサル会社にいて、その後ぺんてるに転職されたんじゃないかなあと思っています。
古澤氏がディフェンディングチャンピオンとして登場しなかった理由はもちろん判らないわけですが、もし高畑氏が挑戦者として古澤氏と戦ったらどうなったのでしょうか。
そして、もしわたしもその場にいたとしたら──まあ、まったく歯が立たなかったのだろうなあと。それはifじゃなくて、事実ですけどね。
本書は図書館で借りたものなので、期限が来れば返却せねばなりません。
古本も検索しているのですが、なかなか出てきませんね。
でも可能であれば手許に置いておきたいものです。