たこぶろぐ

ブンボーグA(エース)他故壁氏が、文房具を中心に雑多な趣味を曖昧に語る適当なBlogです。

【ブンボーグ・メモリーズ】第13回:Hi-uni芯(三菱鉛筆)
1980年代の文房具を懐かしく思い出すエッセイ。
そう、わたしの青春時代は「ノートはコクヨ、シャープ芯は三菱」だったのです。

初出:2017年12月15日

 かっこいい、とは何だろう。
 かっこよさは、時代とともに流れゆくものだ。
 1980年代には1980年代のかっこよさがあったのだ。

 80年代は様々なものが革新的に、また飛躍的に進化し、目の前に次々に現れる時代だった。
 例えば、映画『スター・ウォーズ』(1977)から始まったSFブームはその後洋画だけでなく邦画、アニメ、テレビ番組の様々な場面に拡がって行き、また小説、漫画といった従来からあったSF作品も80年代になって改めて目が向けられるようになっていく。
 映像にも革新がもたらされた。コンピュータ・グラフィックスが単なる想像上のものではなく、映像としてわたしたちの目の前に現れ出したのもこの頃だ。映画『トロン』(1982)はSFとコンピュータ・グラフィックスの融合体として登場し、観客を驚かせた。
 また、アメリカとソ連──いまのひとにはソビエト連邦について説明が必要かもしれないが、とにかく80年代は世界の二大超大国が軍事力を背景に緊張を強いられていた時代でもあった。何かあったら戦争は即核兵器の応酬となる、そんな時代を「冷戦の時代」と呼んだが、わたしたち男子高校生はそういった戦争のニオイをミリタリー兵器へのかっこよさにすり替え、戦争ではなく戦闘兵器、メカニックとしての軍事技術に感心を持ったりした時代でもあった。

 SF、戦争、メカものとくると、輸入先はたいていアメリカである。英語がかっこいいと思い込んでいる80年代の男の子は、ことのほか英単語を好み、なにかにつけ名称に英語、あるいは英語っぽい名前をつけたがる。
 その中でも、この当時かっこいいと思われていたのが、いわゆる英語の略称──イニシャリズムやアクロニムだ。
 ニュースでも、よくイニシャリズムやアクロニムを聞くことができた。
 ICBM(アイ・シー・ビー・エム:Inter-Continental Ballistic Missile 大陸間弾道弾)
 SLBM(エス・エル・ビー・エム:Submarine-Launched Ballistic Missile 潜水艦発射弾道弾)
 NATO(ネイトゥ:North Atrantic Treaty Organization 北大西洋条約機構)
 START(スタート:Strategic Arms Reduction Talks 戦略兵器削減交渉)
 わたしはSF的な漫画を描いていたので、出てくる組織の名前やメカニックシステムをこうしたイニシャリズムやアクロニムで作るのが好きで、いくつも適当な造語を作っていた記憶がある。
 特に、アルファベット4文字は格別に美しい。当時は本気でそう思っていた。
 だから、いつも使っている三菱uni芯の高級版が出たとき、その名にうっとりとしたのだ。

 新しいシャープ芯の名は、GRCT。

 正式な名称としては「Hi-uni芯」なのだが、パッケージを見る限り、本製品はどう見ても「GRCT」と言う名の製品だ。
 40本入り300円。
 今までのユニ芯が40本入り200円だったので、これはかなり高級である。
 引き締まった黒のボディ。覗き窓を覆う銀色のグリッドは、どこか『トロン』を連想させる未来的デザイン。
 ど真ん中のGRCTロゴは、印刷ではなくシールだ。
 パッケージには「GRCTとは何か」は書かれていない。
 一番大きな文字が、GRCT。
 次がやや控えめに、Hi-uni。
 そしてもっと小さい文字で、英文が記載されている。
 PRESSURE-PROOFED HI-DENSITY LEADS
 しかし、これも「GRCTとは何か」には答えていない。
 この英文は、JISマークが印刷されていた時代のuni鉛筆にも書かれているものだ。
 GRCTとは関係がない。

 GRCTって何だ。

 もしかしたら、店頭販売の什器には書いてあったのかもしれない。わたしが気づかなかっただけなのかもしれない。
 その後、わたしがGRCTの意味を知ったのは、しばらくして三菱鉛筆のCMをテレビで見てのことだ。
 ラジオ番組『ジェットストリーム』や洋画吹替、また各種ナレーションでお馴染みの城達也が、そこでは渋めの声でこう告げていたのだ。

「ジー・アール・シー・ティー──グラファイト・リーインフォースド・カーボン・テクノロジーの成果。芯はまた強くなった」

 Graphite(黒鉛)!
 Reinforced(強化)!
 Carbon(炭素)!
 Technology(技術)!

 めっちゃかっこいい!
 城達也も言ってたよ! 「GRCTの驚異」って! 驚異的なかっこよさだ!

 中学の頃からシャープ芯はuni芯一辺倒で、使い潰した芯の本数は枚挙に暇がない。そして高校時代になって現れた高級シャープ芯Hi-uni芯が、ここからわたしのスタンダードとなって授業に、受験に、そして漫画に消費されていく。より折れにくくなったことは事実だったが、それより「もう中坊ではない」というか、高級な芯を使うことにより少しずつ大人に近づいている背伸び感も心地よかったのだろうと思う。
 通う高校の周囲には文房具店がなく、校内の購買にあったのは普通のuni芯だった。わたしは密かに鼻を高くした。もっともおおっぴらに鼻を高くしたところで、周囲に理解者はいなかったわけだが。

 21世紀の今のシャープ芯は、この当時の高級芯の性能を凌駕しているだろうと思う。濃さも、強さも、おそらく段違いの製品に仕上がっている。
 だから、あえてこういった古い芯を探して使わなくとも、各社がしのぎを削って進化させた現在の芯を使った方が、より濃く、なめらかで折れにくいのは間違いない。
 ただ、やはり「その製品を選ぶ決定的な部分はどこか」となると、書き味プラスもうひとつ──「選んで買うほどのインパクト」も重要なのではないか。21世紀のナウなヤングにはもう「グラファイト・リーインフォースド・カーボン・テクノロジー!」と言っても衝撃はないかもしれない。そういう尖った部分ではなく、もっと心の内側に暖かく優しく拡がるもののほうが受けがいいのかもしれない。
 それでも、やっぱりかっこいいぞGRCT!

【後日譚】
そう、やっぱり英単語の4文字短縮形ってかっこいいのです。
あと、いなかの中高生は文房具に凝ると言っても結局は消耗品であるシャープ芯、消しゴム、ノート以外はそうそう買い換えることもできないし、選択肢も少なかったんですよね。
この連載では取り上げていませんが、わたしの消しゴムは基本的に(株)ホシヤのkeep。これは静岡県民のソウル消しゴムですから論を俟たないのですが、ノートはコクヨのキャンパス二代目(これは第18回で取り上げています)、シャープ芯は三菱で決め打ちだったんですね。
GRCTの前の三菱の芯は、硬質な透明プラのケースで、上半分に黒い樹脂パーツが填まっていて、蓋とロゴ部分がこの黒色樹脂だったんですね。使用後、この黒色樹脂を外して遊んだ記憶があります。遊ぶ、と言ってもただ外したり着けたりするだけなのですが。
ただ、このGRCTパッケージになってからはそれができなくなりました。だからといって旧タイプと同じケースで出たGRCTIIに乗り換えたかというとそんなこともなく、「やっぱり200円の芯より300円に芯の方がかっこいいよな!」と思って継続使用しておりました。
200円と300円、明確な書き心地の違いなどなかったような気もするのですが、やっぱり高い方が高性能っぽいですよね。
そして大学に入学し、田舎にはなかったバラエティに富む各社の文房具を目の当たりにしてわたしの文房具マニア能力は急激に開花していきます。替芯も三菱一辺倒から、ぺんてるのハイポリマー100に移行しております。ごめんねGRCT。

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コメント

1. 替芯は黒鉛のにおい

三菱鉛筆の替芯はシャープペンシルのものも、ボールペンのものも、共に高性能な感じがします。

パイロットのBRF-20みたいな替芯を一時期作っていたのに廃番にしたりとか、意匠にこだわると訳のわからない方向に向かうとか、最近の軸の意匠はちょっとなあという面もありますが、今後も頑張って欲しいところです。

ところで文中に於いて『冷静の時代』とありますが、『冷戦の時代』ではないでしょうか?

Re:替芯は黒鉛のにおい

>ところで文中に於いて『冷静の時代』とありますが、『冷戦の時代』ではないでしょうか?

あ、本当だ。修正しました。ご指摘ありがとうございました!
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