たこぶろぐ

ブンボーグA(エース)他故壁氏が、文房具を中心に雑多な趣味を曖昧に語る適当なBlogです。

パイロット精機とは何か
オイルライターを入手しました。
古いものです。正確な年代は判りませんが、おそらく昭和20年(西暦1945年)か21年(1946年)──終戦後まもなくだと推定されます。



メーカー名は、シグマ工業株式会社。



カバーアームに「SIGMA」の文字が見えますね。



裏面には別の社名の刻印もあります。



判りますかね。下がシグマ工業の社名、そして上には──



パイロット精機株式会社の刻印があります。

パイロット精機は昭和19年(西暦1944年)5月、パイロット万年筆株式会社から分離独立した軍需会社です。
昭和に入り戦時色が濃厚となり、さまざまな資材の統制がかかる中、昭和14年(西暦1939年)に万年筆の「生命」とも呼べる金と、ペンポイントの材料であるイリジウムが使用禁止となります。
パイロットはその時、ステンレスのペン先(パイロットではこれを金ペンに対し「白ペン」と呼称しました)を開発し、イリドスミン(イリジウムの合金)の代替品としてパイロスミンという合金を生み出しペンポイントとして使用しています。
このパイロスミンが羅針盤の軸受けに最適とされ、需要が拡大。国への貢献と縮小しつつあった万年筆の製造販売をカバーするため、パイロットは万年筆の製造工場を縮小すると共に軍需のための工場を拡充。のちに別会社を立て、パイロット精機と名づけたのです。



昭和20年(西暦1945年)4月12日の東京大空襲で、パイロット万年筆の志村工場と大塚工場は全焼しました。
パイロット精機は山梨に逃れていましたが、ここで終戦を迎え米軍に施設を差し押さえられてしまいます。
GHQによる解散指令ののち、パイロット精機はシグマ工業と名を変え、最初にライター製造を行います。ところがこれは資材統制によってすぐ頓挫し、続けて時計製造に路線を変更。こちらはセイコーとの価格競争に負けてしまいます。その後は国産初の油性ボールペン製造を目指して開発を続けましたが、夢破れ昭和24年(西暦1949年)には倒産の憂き目に遭います。



記録を見る限りではほとんど市場に出回らなかったのではないかと思っていたシグマ工業のライターですが、メルカリにひょっこり現れたのは奇跡だったのでしょうか。よもやパイロット精機とのダブルネーム仕様だったとはつゆ知らず。
メルカリの販売者によれば「ちゃんと火がつきますよ」とのことだったのですが、わたしはこれにオイルを入れる気にはなれません。
歴史の生き証人として、大切に保管しておこうと思います。

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コメント

1. 無題

突然のコメント失礼します!
先日友達の趣味でとある骨董市に行った際にクラシックな見た目に惹かれての色違いの全く一緒の物を偶然買ってました!
このライターがそんなに貴重な物だとは全く知りませんでした

Re:無題

>突然のコメント失礼します!
>先日友達の趣味でとある骨董市に行った際にクラシックな見た目に惹かれての色違いの全く一緒の物を偶然買ってました!
>このライターがそんなに貴重な物だとは全く知りませんでした

コメントありがとうございます。
物には歴史があって、意外な顔を見せることがあります。
わたしもたまたまではありますが、現物を手にして歴史の隠された顔を見ることができて大変嬉しかったです。
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