たこぶろぐ

ブンボーグA(エース)他故壁氏が、文房具を中心に雑多な趣味を曖昧に語る適当なBlogです。

ラッカナイトとは何か
大正13年11月6日出願、翌14年7月14日特許公告。
特許第六四八一一號『「エボナイト」ノ褪色ヲ防止スル方法』──それが、並木製作所(現・パイロットコーポレーション)が提出し特許を取った「ラッカナイト」の全貌です。

当時、万年筆の軸材はエボナイトが主流でした。まだセルロイドの軸を持った万年筆は存在しませんでした。
エボナイトは生ゴムと硫黄を混ぜ合わせて作る合成樹脂ですが、磨くと光沢が出て、耐薬品性にも優れ、万年筆にはうってつけの素材でした。
ただ、弱点がありました。
生ゴムと反応しきれない遊離硫黄がエボナイト内に残留してしまい、時間経過と共にガスとなって表出。漆黒だったエボナイトの表面が茶褐色に変色してしまうのです。
しかも紫外線に晒すと、この変化が加速されます。キャップをしていた内部の金ペンがダメージを受ける「エボ焼け」の原因ともなりました。

並木製作所は、このエボナイトの褪色を防ぐため、当初軸表面に漆を塗りました。
これで裸のエボナイトよりは持つのですが、それも恒久的ではありませんでした。

では、エボナイトそのものを改良してしまってはどうか?
その研究結果が特許の内容です。

生ゴムと硫黄を混ぜ合わせる際、いっしょに硫化鉄と漆も混ぜます。
エボナイトの硬化後、軸材を高速回転させ、その表面に漆を擦り込みつつ塗布します。
乾燥後に研磨すると、エボナイト軸の表面に「エボナイト内に残っている遊離硫黄と漆酸と生ゴムが化合した被膜」が発生します。
さらに硫化鉄と漆酸に含まれるタンニン酸が化合することにより、この被膜が真っ黒になります。
この被膜こそが「ラッカナイト」です。

このラッカナイト製法を得て、並木製作所は変色しないエボナイト+漆塗りの軸、さらにその上から蒔絵を施すことで、英米の先達に勝るとも劣らない優美で実用的な万年筆を生み出すに至りました。

そのラッカナイト軸の万年筆が、ここにあります。
昭和8年(1933年)、ラッカナイト軸3号ペンT式万年筆です。



今年が2024年なので、91年前の万年筆ということになります。



T式っていうのは、この胴軸中央にある金具をひょこっと立てて、ペン先をインク瓶に入れ、金具をひょこっと戻すことで内部のゴムサックを拡縮させてインクを吸入する方式。Tは「梃子」です。どんだけインクを吸ってくれたかまったく判りません。



3号ペンは14金。予想に反してめちゃくちゃ柔らかい書き心地です。今とはペン先の設計思想が違うんだなあ。



写真ではほぼ見えませんが、

"P I L O T"
THE NAMIKI (N)MFG.CO.LTD
MADE IN JAPAN

って刻印されています。かっこいい!

この時代の万年筆なのでブルーブラックを入れましたが(当時と違って現在のパイロットのブルーブラックは「色水」ですけど)まあ気分は出たかな、と。
油断すると筆記線が切れるあたりが現代の至れり尽くせりペン先とは違う部分ではありますが、書いていて楽しい!
というか、91年前の万年筆が大きな傷もなく手元にやってきて、そしてそれが書けるってのは本当に凄いことですよね。
憧れのラッカナイト軸が手に入って大満足です。
ちなみに昭和8年は父が生まれた年です。父と同い年かー。改めてすげえな、万年筆も、存命の父も。

ブングテン32では、こいつの試筆大会でもやろうかな、と。
昭和8年・昭和31年・現行品の書き比べ対決! みたいな。
4月21日(日)11時から18時、雑司ヶ谷丘の上テラスでお待ちしております!

(2024年3月28日改稿:初出時、年代などを間違えておりましたので修正いたしました)

拍手[1回]

コメント

コメントを書く